行雲流水の如く

-Re-Start From 65 Years Old-

忙中閑あり

茨木のり子

 昨年の今頃も確かそうだったが、なんだかめちゃくちゃ忙しい日々が続いている。

 本職(?)である科学館の方の仕事、オオムラサキ関係のNPOの仕事、それにもう一つの頼まれ仕事等々。すべて、自分の意志で始めたことなので、誰にも文句は言えないのだが、ここのところやや自分を見失うような感覚になる事があって、こういう時ほど身の回りを片づけたり、少し遠い所に出かけたり、誰かの言葉に耳を傾けたくなったりする。

 

自分の感受性ぐらい

ぱさぱさに乾いてゆく心を

ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを

友人のせいにはするな

 

しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを

近親のせいにするな

 

なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを

暮らしのせいにはするな

そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を

時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性ぐらい

自分で守れ

ばかものよ

 

 これは、詩人 茨城のり子からの強烈なメッセージ。かつて戦争のあった時代に、芸術や娯楽が次々に消えていった頃の思いを詩に託したものだと言う。また、四半世紀を共に過ごしたご主人が亡くなり、以降31年間の一人暮らしの中から生まれた作品でもある。何物にもたよらない、凛とした力強さを感じる詩である。

 そして、彼女が73歳で刊行した詩集『倚(よ)りかからず』が、朝日新聞天声人語」で取り上げられた事で話題になり、詩集としては異例の15万部を超えるベストセラーになったという。

 

倚(よ)りかからず 

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

 

 2006年自宅で急逝した彼女は、きっちりと生きることを心がけた彼女らしく遺書が用意されていた。

「私の意志で、葬儀・お別れ会は何もいたしません。この家も当分の間、無人となりますゆえ、弔慰の品はお花を含め、一切お送り下さいませんように。返送の無礼を重ねるだけと存じますので。“あの人も逝ったか”と一瞬、たったの一瞬思い出して下さればそれで十分でございます」。享年79歳。

 

 この力強さと清々しさは、遠くまで見据えた一つの方向性を示してくれている。

<マイ ギャラリー>

憂い

<My Favorite Songs>

Simon & Garfunkle 「Kathy's Song」


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 サイモン&ガーファンクルのデビューアルバム「水曜日の朝、午前3時」がわずか3千枚しか売れなかったポール・サイモンは失意のうちにイギリスに一人旅に出る。そして、キャシーという女性に出会う事になるが、この曲は彼女のために創った曲なのだそうだ。ギターの3フィンガーピッキングのお手本とも言えるこの曲は、自分がギターを一番練習していた頃、よく参考にしていたものだ。ポール・サイモンは実はかなりのギターの名手でもある。