行雲流水の如く

-Re-Start From 65 Years Old-

どん底に大地あり

 

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モデルとなった永井隆医師

 いつ頃からだったかは覚えていないが、少なくともここ数年はNHKの朝ドラをほぼ欠かさず見ている。仕事もあるのでビデオに録画して、後でまとめて見ることも多い。

15分という短い時間の中でテンポ良く話が進んでいく事や、NHKの朝ドラという事もあり、多少ハラハラしても概ねさわやかな内容で話が進行していくのが心地よい。

 ただ、先週から今週にかけての朝ドラ「エール」は今までとは違っていた。裕一の恩師が目の前で殺されたり、自分の作った歌のせいで多くの若者たちが戦死したりするなど、重苦しい描写が取り上げられ、裕一は贖罪の思いから曲が書けなくなってしまう。NHKの朝ドラとしては、ここまで戦争を取り上げるのは異例の事だったようだ。

 ドラマの中で裕一は、映画「長崎の鐘」の主題歌を作曲するために、原作者であり被爆者の治療に当たった永田武という医師に会いに行く。その会話の中にこんな言葉が出てくる。

 「焦土と化した長崎、広島を見てある若者が『神は本当にいるのですか。』と私に問うたとです。」

 「私は、こう答えました。『落ちろ、落ちろ、どん底まで落ちろ。』」

 「その意味、あなたに分かりますか?」

 

 答えに窮した裕一は、3日3晩悩み続けることになるが、やがて原爆投下直後に永田医師が被爆者の治療にあたった場所に赴き、そこで見つけた『どん底に大地あり』という言葉から、その答えが『希望』である事に気付く。

 

 この場面を見ていて、ふと学生時代に読んだ坂口安吾の『堕落論』を思い出し、久しぶりに本棚から探し出して読んでみた。

 「戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄のごとくではあり得ない。人間は可憐であり脆弱であり、それゆえ愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。」

 「人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。」

 どちらも、終戦後、全てのものを失い、家族を失い、それまでの価値観までも失った日本人が、どん底から這い上がろうとする気迫のようなものを感じる。それは、忘れかけていたものでもある。思わぬ事から、若かった頃の自分に出会ったような気がした。

今夜はSTONESで!


The Rolling Stones - Brown Sugar (Live At The Fonda Theatre 2015)