この10月から、朝日新聞の新聞モニターというものに参加している。これは、新聞記事に対して、良い点、改善を要する点などをコメントするもので、自身のボケ防止という事もあって応募してみた。最近は、ニュースはネットで確認する事も多くなっていたので、紙面をあらためて読んでみると、結構な情報量である事が分かる。
その中で、自分がいつも一番最初に目を通すのが、1面の下の方にある「折々のことば」である。これは、哲学者の鷲田清一氏が、古来の金言からツイッターのつぶやきまで、様々な「ことば」を取り上げ、紹介した想いをつづる小さなコラムである。
実は、先日このコラムで長田弘という詩人の言葉が、目に止まった。
「砂漠で孤独なのは、人間だけだ。」 長田弘
光が拡散するばかり、「どこにも、動く影がない」アリゾナの砂漠に、天を仰いで点々と、そして堂々と立ち続け、静かに老いていく幾百本のサグアロ・サボテン。人もまた企んだり飾ったり饒舌になったりせず、寂しさや覚束なさへの不安に身を苛むこともなく、自らの「摂理」に従って生き通したいもの。
(詩集『世界はうつくしいと』所収)から
2019 11.12 朝日新聞「折々の言葉」
恥ずかしながら、自分はこの詩人の事を知らなかったが、何となく気になって、この詩集を手に入れてみる事にした。残念ながら、自宅近くの本屋にはなさそうなので、久しぶりに散歩をかねて神保町に出かける事にした。
<神保町界隈散策>11/15(金)
天皇陛下のご即位を 祝う垂れ幕があちこちに。
「タクト」は、中古のCD屋だが、昭和の歌謡曲やアイドルもの、カルトなグループサウンズなども取り揃えている店。この日も、サラリーマンが数人、中を覗いていた。
街路樹は、すでに黄葉がすすんでいた。
タクトの先には、珍しいカルタの専門店。「奥野カルタ」
聖橋からニコライ堂を眺める。聖橋は、老朽化のための補強工事を行っていた。
神保町と言えば、やはり古書店や楽器店が多い。もの珍しいのか外国人観光客もよく歩いている。ちなみに、左の石橋楽器は、現在自分が使用しているYAMAHAのエレアコを購入した店である。
神保町には飲食店の有名店も多い。「キッチン南海」はカツカレーで有名。「さぼうる」はレトロな喫茶店。以前入った時は、たばこの煙がつらかったが、今はお昼時は禁煙になっていた。
神保町界隈をぐるりと回って、ようやく三省堂で入手することができた。
「折々の言葉」で紹介されていた「ゆっくりと老いていく」を紹介しておく。
ゆっくりと老いていく
微かな風もない。
島の影も、翅の音もない。
雲一つない青い空が
どこまでもひろがって、
見わたすかぎりの
砂の色、岩山の色を、
日の光が、微妙に揺らしている。
砂漠というのは、光の拡散なのだ。
灰緑色のクレオソート・ブッシュ。
棘のある花束のようなオコティーヨ。
砂の木であるメスキートの木。
どこにも、動く影がない。
けれども、見はるかす遠くまで、
澄み通った大気のなかに、
点々と、何百本もの、
巨大なサグアロ・サボテンが、
立っている。
もうすでに、この場所で、
二百年は生きてきた。それでも、
緑の巨人たちは、倒れる日まで、
この、無の、明るさのなかに、
立ちつづけて、ゆっくりと老いていく。
北米南西部、アリゾナの砂漠の、
サグアロ・サボテンはそうだと思う。
穏やかに、称えられることなく、
みずから生きとおす、ということ。
砂漠にカタストロフィはない。
摂理があるだけだ。
砂漠で孤独なのは、人間だけだ。