行雲流水の如く

-Re-Start From 65 Years Old-

1冊の詩集をさがして~神保町界隈散策~

 この10月から、朝日新聞の新聞モニターというものに参加している。これは、新聞記事に対して、良い点、改善を要する点などをコメントするもので、自身のボケ防止という事もあって応募してみた。最近は、ニュースはネットで確認する事も多くなっていたので、紙面をあらためて読んでみると、結構な情報量である事が分かる。

 その中で、自分がいつも一番最初に目を通すのが、1面の下の方にある「折々のことば」である。これは、哲学者の鷲田清一氏が、古来の金言からツイッターのつぶやきまで、様々な「ことば」を取り上げ、紹介した想いをつづる小さなコラムである。

 実は、先日このコラムで長田弘という詩人の言葉が、目に止まった。

    「砂漠で孤独なのは、人間だけだ。」   長田弘

 光が拡散するばかり、「どこにも、動く影がない」アリゾナの砂漠に、天を仰いで点々と、そして堂々と立ち続け、静かに老いていく幾百本のサグアロ・サボテン。人もまた企んだり飾ったり饒舌になったりせず、寂しさや覚束なさへの不安に身を苛むこともなく、自らの「摂理」に従って生き通したいもの。

   (詩集『世界はうつくしいと』所収)から    

      2019 11.12 朝日新聞「折々の言葉」  

  恥ずかしながら、自分はこの詩人の事を知らなかったが、何となく気になって、この詩集を手に入れてみる事にした。残念ながら、自宅近くの本屋にはなさそうなので、久しぶりに散歩をかねて神保町に出かける事にした。

 <神保町界隈散策>11/15(金)

f:id:wf160310-6741:20191117234037j:plain
f:id:wf160310-6741:20191117234120j:plain

 天皇陛下のご即位を 祝う垂れ幕があちこちに。

「タクト」は、中古のCD屋だが、昭和の歌謡曲やアイドルもの、カルトなグループサウンズなども取り揃えている店。この日も、サラリーマンが数人、中を覗いていた。

f:id:wf160310-6741:20191117234623j:plain
f:id:wf160310-6741:20191117234639j:plain

 街路樹は、すでに黄葉がすすんでいた。

タクトの先には、珍しいカルタの専門店。「奥野カルタ」

f:id:wf160310-6741:20191117234900j:plain
f:id:wf160310-6741:20191117234924j:plain

 聖橋からニコライ堂を眺める。聖橋は、老朽化のための補強工事を行っていた。

f:id:wf160310-6741:20191118010107j:plain
f:id:wf160310-6741:20191118001645j:plain

  神保町と言えば、やはり古書店や楽器店が多い。もの珍しいのか外国人観光客もよく歩いている。ちなみに、左の石橋楽器は、現在自分が使用しているYAMAHAエレアコを購入した店である。

f:id:wf160310-6741:20191118113144j:plain
f:id:wf160310-6741:20191118001617j:plain

 神保町には飲食店の有名店も多い。「キッチン南海」はカツカレーで有名。「さぼうる」はレトロな喫茶店。以前入った時は、たばこの煙がつらかったが、今はお昼時は禁煙になっていた。

 

f:id:wf160310-6741:20191118113217j:plain

 神保町界隈をぐるりと回って、ようやく三省堂で入手することができた。

「折々の言葉」で紹介されていた「ゆっくりと老いていく」を紹介しておく。

 ゆっくりと老いていく

微かな風もない。

島の影も、翅の音もない。

雲一つない青い空が

どこまでもひろがって、

見わたすかぎりの

砂の色、岩山の色を、

日の光が、微妙に揺らしている。

砂漠というのは、光の拡散なのだ。

灰緑色のクレオソート・ブッシュ。

棘のある花束のようなオコティーヨ。

砂の木であるメスキートの木。

どこにも、動く影がない。

けれども、見はるかす遠くまで、

澄み通った大気のなかに、

点々と、何百本もの、

巨大なサグアロ・サボテンが、

立っている。

もうすでに、この場所で、

二百年は生きてきた。それでも、

緑の巨人たちは、倒れる日まで、

この、無の、明るさのなかに、

立ちつづけて、ゆっくりと老いていく。

北米南西部、アリゾナの砂漠の、

サグアロ・サボテンはそうだと思う。

穏やかに、称えられることなく、

みずから生きとおす、ということ。

砂漠にカタストロフィはない。

摂理があるだけだ。

砂漠で孤独なのは、人間だけだ。